僕が19歳の頃、A君というやつと当時のバイト先で仲良くなった。
顔立ちは結構イケメンなんだけど、六大学で野球するのが夢だったのに、一浪しても日本大学しか受からず、「もう俺は余生みたいなもんだから」みたいな事をいっちゃうやつだった。
そんな所が結構面白くて、結構一緒にお酒を飲んだりしていた。
酒癖が悪くて、すぐに暴れる。
一緒に新宿2丁目に飲みに行ったときは、隣で普通に飲んでた女の子に
「おい風俗嬢、こらぁ!」と最低な絡み方をするやつだった。
アメリカのジャッカスという番組がそいつは好きだった。
ジャッカスって番組は、まぁいってしまえばバカでナンセンスで過激な事を全力でやるものだ。
ホットケーキの材料を全部食べて、それでゲロ吐いてホットケーキ作ったりとか、なんか自転車でとんでもないところ走ったりとか、そういう糞番組だ。
A君がジャッカス好きっていうのは皆知っていたので、ジャッカスAと呼ばれていた。
A君はジャッカスっぽい事だったらなんでも許してしまう。
例えば、ある時、帰り道に急に植え込みに突き飛ばしたら10万円くらいするジャケットがびりびりに破れた。
でもA君は
「ジャッカスだねぇ」
といって許してくれる。
A君の住んでいるマンションの廊下でしょんべんをしながら歩いていてもゲラゲラ笑いながら
「ジャッカスだねぇ」
と許してくれる。
お洒落が好きなやつで、ブライトリングの100万円くらいする時計を、当時金もないのに頑張って買っていた。
その時計を一緒に飲んだ時に、
「A君、時計となりの人が欲しいってよ」
っていったらしょうがないなぁとその場のノリであげてしまうやつだった。
その時はさすがにしばらく一緒に飲んでくれなくなったが。
ある時、僕はいかなかったがA君がタイのパンガン島という所に遊びにいった事があった。
A君は一個もタトゥー入れてなかったのに、なんかノリでタトゥーをいれる事にしたらしい。
最初腕にピアノの鍵盤を入れようとしたのだが、その夜、パンガンでやってるパーティー会場に行くときにバイクで事故って
「俺はピアノの鍵盤を入れるような人間じゃない」と思い直し、
腕に
「SAFETY FIRST」と入れた
セーフティファーストは安全第一という意味らしい。
そんな糞バカ野郎が、ある時急にももクロにハマった。
それまでお洒落大好きすぎて女性誌を男なのに毎月4誌買っていた拗らせ野郎が急にアイドルオタクになったのだ。
ももクロがやってるライブは海外だろうが全部いっていた。
そんなやつだからはまった時の熱量はヤバい。
もう人生ももクロさえあればいいと言っていた。
THE依存。
「ももクロが紅白に出たら俺は死ぬんだ」と酒を飲むといっていた。
僕らは
「死ね死ね!!その方が面白いぞ!!」
なんて囃し立てていた。
そんな事があって、数年前、初めてももクロが念願の紅白に出た。
そのあとだ。
A君と全く連絡が取れなくなった。
僕らはいくらなんでも心配になって、知り合いの一人が大家に連絡をとって家に入れてもらった。
「探さないで下さい」
と書置きだけあって家の中は何もなくなっていた。
これはヤバいってなって実家の方に連絡をして、警察に捜索願を出した。
ももクロのライブを調べて僕らも何か所か探しに行った。
もしかしたら行列に並んでいるかもしれない。
A君のお姉さんも探しにきていたのだが、新婚だったようで旦那さんも一緒になって探してくれた。
きいたらA君はお姉さんの結婚式もバックレていたようで、旦那さんはA君の顔さえ知らないようだ。
写真をみたり僕らが特徴を教えたりして、旦那さんは一度もあった事のない弟を必死で探していた。
すごくまじめで良い人だなぁと思った。
結論から言うと、いまだに見つかってない。
もしかしたら実家に帰って僕らに連絡してないだけかもしれない。
僕らも実家に連絡してないし、あっちもまじめな野球少年だった息子がそんな風になってしまったのは僕らのせいだって思うかもしれない。
A君がいなくなる直前にお酒を飲んだ時に急に
「実はここの黒く塗りつぶしてある部分の下には、○○と○○と○○の名前が掘ってあるんだよ」
と言っていた。その○○のうちの一人は僕だ。
急に何をいってやがんだ、気持ち悪いなぁなんて思ってたが、まさか消えるつもりだったとは。
死んでるか死んでないかどうかわかんないが、死体で見つかって腕に
【SAFETY FIRST】
って入ってたらA君だ。
是非見つけたら僕に連絡下さいw
全く、何が安全第一だ!
一つも安全じゃない。
でも死体で見つかったとしてもキレイにオチがついてるから、なかなか悪くない死に方ではあると思う。
超迷惑だけど。
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