池袋で家賃2万円の何とか荘に住んでたT君の話

従業員に働いてもらうっていうのは中々難しい。

人と人なので、考え方も違えば、仕事の不得手も違う。

綺麗事を言えば、それが一緒に仕事をするという事の素晴らしさなのだが、大抵はそこが厄介で面倒な場合が多い。

それでもちゃんと働いてくれた上でだったらいいのだが、稀に、そのちゃんと働くという行為が出来ない人がいる。

まだロボットデリヘルが出来る前、7年ほど前に雇っていたT君という男がいる。
物腰も柔らかくて顔立ちもよく、一見好青年だ。

仕事ぶりも真面目だ。
ただ…来ればの話だが。
この男、スーパー遅刻魔だったのだ。
今だったら速攻クビにするだけの話なのだが、同い年というのもあって共通の知人が多かったり、そもそも仕事の関係になる前には2人で飲み行くくらいの関係だったので、なんとなくダラダラと雇ってしまっていた。

でも、まぁ遅刻する。

遅刻といっても、10時間くらいしてから連絡つくとかそういうレベルだ。もう遅刻というか、次の日の出勤の方が近かったりする。

それが2日に1日とかだからもう最悪だ。
もっと悪いのが、毎回本気で反省するのだ。

アホなのだ。毎回、本当に本気の目で

「もう俺は最低だ…償いのしようがない…。迷惑ばかりかけて…。」という風にいってくるのだ。
今考えると僕もよくないのだが、同級生という事もあって、お酒と飯を奢りながら…「明日は頼んだよ?」と許してしまっていた。
一回、T君が「俺は多分、そういう心の病気だと思う」といって精神科にいった事がある。
精神科の先生に一蹴されたらしい。

「あなたのは、病気じゃない。ただ、だらしないだけです」と。

いや全くその通りだ。

なんでもかんでも病気にされたら困る。

T君が、どこのカード会社が申請通しやがったんだか、クレジットカードが作れた時があった。

その日に
「いつもご馳走になってばっかりいるから俺が奢るよ!」といってくれた

僕は

「いや…いいよ。カードはお前の金じゃないからな?」

といったのだが、

「いや、もうこのカードを維持できないようだったら俺はダメだと思う」といって奢ってくれた。
僕は「そもそもカード維持とか関係なくお前はダメだ」と思いながらも、あんまりいうので奢られた。
案の定、次の月にはすぐにそのカードは使えなくなった。多分もう何年も経った今も払ってないと思う。

T君は酔うと、「日本はこのままじゃダメだ!!」と右翼的な発言をする。
別に右翼でも左翼でもどっちでもいいのだが、とりあえず、せめて国民健康保険くらい払ってから日本を憂いて欲しいものだ。

そんなやつだからいつも金がなかった。

こっちもどうにかしてあげようと思うのだが、時給制のバイトだったので、どうにもあげられないのだ。
来ないから。
一回遅刻するので、2週間くらいうちに住ませてやった事がある。T君は金がなさすぎて家がなくなったのだ。ルームシェアしてた友達に追い出されたんだったと記憶している。

食費も全部僕が実質出してあげてるみたいな状態だ。
なんで僕もそんな事してあげてたんだろうと思うのだが、ペットみたいなやつだから、可愛かったんだと思う。

でも朝方、僕が毎日起こしてあげないと起きない。

3日目くらいで殺してやろうかと思った。
その後、T君は池袋で家賃2万円のアパートに引っ越した。

今の時代によくそんな所があったもんだと驚いた。

でもなんでT君は、夢を追いかけてる訳でもなんでもないのに、そんな苦労人みたいな家に住むことになるんだろうと思っていた。
引っ越した時、不動産屋が年齢が近かったようで

「Tさん、まさか、ここに住む訳ではないですもんねぇ」と冗談で言われたと言っていた。

「当たり前じゃないですか。」といったのだが、T君はふつうにそこに住むのだ。
実際その後、悪い先輩に違法なクスリの配送先にされたらしい。その不動産屋さんもそういう風に使うんでしょ?というニュアンスで冗談をいったんだろう。

違う。T君はそこに住んでいたのだ。
その家は、ガチで隣の家との間に穴が開いていた。
漫画みたいだなと思った。

当時、付き合っていた彼女とT君の家に悪ふざけで遊びに行ったら、玄関があってないようなものなので、土足のまんま中に上がってしまった。
鍵は、100円ショップで売っている南京錠だった。
もう鍵なんてつけなくてもいいと思う。

そのアパートの目の前に綺麗なマンションがあった。

そのマンションの前でいつもT君とほぼ同い年くらいであろうカップルがいちゃついていると文句をよくいっていた。

よくよくきいてみると、そいつらがいると家に帰れないらしい。
同い年くらいの綺麗なマンションに住んでいるリア充の前で、そんなオンボロアパートに入る所を見られたくないらしい。
全く、そんなプライドあるなら、仕事にちゃんと来てほしい。
人はT君なんかに興味ない。

暫くして、僕も堪忍袋の緒が切れたタイミングでT君と暫く連絡をとっていなかった。

4年前くらいだろうか、テレビをみていた。

有吉とかマツコとか出てる人気番組で、「東京で一番安い家賃はどこか」という話になっていた。
取材NGの所ばっかりだったのだが、取材OKで東京で一番安いとされる家賃の家が発表された。
T君の家だった。

家で一人で信じられないくらい笑った。


Comments

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です